漢方薬の処方

漢方薬

漢方薬って不思議

漢方薬は身体にやさしいと言われているけれど、
・効果がはっきりしない
・効果が出るまでに時間がかかる
・量が多くて飲ませるのが大変といった
との印象があります。

でも、東洋医学の診断「証(しょう)」に基づいて、鍼灸と併せて適切に使用すれば、はっきりとした目覚ましい効果を得ることもできます。また、すぐに効果は見えなくとも、ゆるやかに体質を改善することも得意です。

漢方薬と西洋医学の違い

成り立ち

西洋薬:「エビデンス(臨床試験データ)」をもとに化学的に合成されています。
漢方薬:古来から連綿と積み重なる「経験」をもとに自然に存在する植物・生物や鉱物など(=生薬)を組み合わせて作られています。

漢方薬の現存する一番古い書物は紀元前200年頃に記された「神農本草経」と言われています。現在処方されている漢方薬は2千年以上の経験が集約されているともいえるのです。

処方の仕方

西洋薬:病名や検査データをもとに処方します。
漢方薬:現れている症状だけでなく、体質や体力などその犬の体の状態や季節など、周りの環境などを総合的に判断して使い分けます。身体の状態をきめ細やかに判断して使うことが副作用が少なく、身体にやさしい治療につながっていきます。

薬の形態

西洋薬: 特に日本の製剤は小さくて飲みやすく、甘味やお肉味など嗜好性が高いものが多く見受けられます。

漢方薬:錠剤は大きいものが多く、割って与える必要があります。丸薬といわれる蜂蜜で固めた方剤は小さく飲みやすいです。散剤(粉薬)の味や量は使用されている生薬の種類や量に左右されます。

キュティア老犬クリニックでは、お薬が苦手な犬のために、ドイツ版の漢方薬ともいえるホモトキコロジーや、新生児にも使用することのできる宇津救命丸などで置き換えるなどの対応も行っております。

キュティア老犬クリニックで処方する漢方薬

漢方薬ってどんなときにつかうの?

鍼灸治療の効果増強

鍼灸治療単体ですと、1週間に1・2回と施術間隔が短くなってしまいがちです。漢方薬で補助していくことで、2週に1回・4週に1回など施術間隔を伸ばす効果を得られることが期待できます。

例えば、寒い時期に足腰の調子が落ちてしまう場合、もちろん鍼灸治療も効果絶大ですが、八味地黄丸や牛車腎気丸といった下半身をあたためて強くする漢方薬を使うことで、寒い外での散歩にもダメージを受けにくくなります。また、牛車腎気丸は人間で足の筋肉増強の効果が証明されており、筋力UPによる整体の補助作用も期待できます。

慢性的な疾患

西洋医学は発現している症状を抑え込むのが得意なため、体質などに依存する慢性疾患の場合にはより薬の量が増えていってしまうことも少なくありません。 体質改善も得意とする漢方薬を併用していくことで、薬の量や種類を減らしていくことも可能です。

糖尿病は東洋医学では「消渇(ショウカチ)」といわれる酸性体質にともなう症状とされており、酸性体質改善を得意とする六味丸を服用することで、長年消えなかった尿糖が出無くなったという犬もいます。

西洋薬では症状が改善しない

漢方薬と西洋薬では得意分野が異なります。西洋薬だけでは抑えきれなかった症状が漢方薬ではあっさり治ってしまった事例がたくさんあります。西洋薬の鎮痛剤は体を冷やしてしまうため、冷えからくる痛みの原因を悪化させてしまい、鎮痛剤を減らすとまた痛みが再発してしまうというケースも少なくありません。疎経活血湯などの漢方薬は痛みを緩和しつつ身体を温め血流を改善するため、原因となる冷えまで改善することができます。

漢方薬には副作用がないって本当?

自然の生薬から作っている漢方薬ですが、残念ながら使い方を誤れば、命にかかわるような副作用を生じてしまうこともあります。その個体の体質や体力、取り巻く環境を総合的に考慮し、ベストな組み合わせを選んでいくことで副作用のないやさしい処方を選択しております。

葛の花

(葛:葛根湯にも使われる生薬)

漢方薬と生薬の違いって?

生薬

生薬は自然界に存在する薬効をもった植物や動物、鉱物などの総称です。「四気」・「五味」・「方向」・「帰経」の4種の性能で定義が分類されます。

■四気
寒:強く身体を冷やします
熱:身体を熱くします
温:緩やかに身体を温めます
涼:緩やかに身体を冷やします

■五味
酸(サン):肝に属する。留める
苦(ク) :心に属する。体内から出す、乾かす
甘(カン):脾に属する。補い、和らげる
辛(シン):肺に属する。発汗、行気
鹹(カン):腎に属する。軟堅散結

■方向
昇:上にのぼる
降:下におりる
浮:上行して発散する
沈:下におろして排泄させる

■帰経
その効果が12づつある経絡と臓腑のどれに入るか。

漢方

生薬を東洋医学の理論に基づいて組み合わせて「方剤」としたもの。西洋医学のように「薬効」だけでなく、どの経絡に持っていくなども考慮して組み合わせられています。

■方剤の組成
君薬:病証を治る主たる作用の薬
臣薬:君薬を助け、効果を増強する作用がある
佐薬:君・臣を助け、毒性や副作用を抑えるさようがある
使薬:引経薬ともいう。どの経絡に効かせたいか調整する。全体を調和する作用もあり、全体のまとめ役を果たします

漢方薬は、メインとなる生薬をより効果的に働かせるための組み合わせともいえます。キュティア老犬クリニックでは、場合によっては陳皮など、生薬単体で処方することもあります。

顆粒の漢方薬

漢方薬ってどうやって飲ませればいいの?

食前でなくて大丈夫?

厳密にいえば匂いや味も効き目に影響を及ぼすため、人間では食前での服用が推奨されています。しかし、わんちゃんにお湯で溶いただけの漢方薬を飲ませるのは難しく、手間もかかるため、ご飯のときに一緒に与えてもらっています。

西洋薬と一緒で大丈夫?

ほとんどの漢方薬は西洋薬に影響を及ぼさないか、その働きを助けるため、一緒に服用していただいて問題ありません。ただし、デトックス効果の強いマコモは体にとって作用の強い薬を排泄してしまうことがあるため、1時間程度空けて服用していただいています。

ごはんに混ぜて大丈夫?

食欲旺盛な犬でしたら全く問題ありません。警戒心の強かったり、食の細い犬ですと漢方薬だけでなく、ご飯も警戒して食べなくなってしまうことがあります。そのような場合はおやつなど別の食材と一緒に与えることをお勧めします。

味が苦手なコには

漢方薬の匂いを緩和するヨーグルトと味をごまかす蜂蜜の組み合わせがおススメです。ヨーグルトは冷蔵庫から出したてではなく、室温から人肌に温めたものを使用してください。また、ねっとりと薬にまとわりついてくれるサツマイモや茹でた薄切り肉を利用する飼い主さんもいらっしゃいます。

漢方薬だけ処方してもらうことはできますか?

東洋医学の「漢方治療」はもともと「鍼灸」・「漢方」・「按摩」・「薬膳」を組み合わせた治療法を指しています。どれか「一つだけ」の治療ですとその治療の負担大変大きくなってしまいます。

漢方薬にしても、お薬だけで「漢方治療」の効果を得ようとすると4~6種類程度の沢山の漢方薬の服用が必要となってしまい、愛犬さんへの負担が大きいものとなってしまいます。そのため、キュティア老犬クリニックでは基本的には漢方薬のみの処方は行っておりません。

天台烏薬(てんだいうや)

(天台烏薬(てんだいうや):補腎・止痛などの効果をもつ生薬)

漢方薬はシニア犬におすすめ!

キュティア老犬クリニックでは愛犬さんのおのを「五行」や「虚実」を診ながら漢方薬を処方します。ですので同じような症状をかかえていてもその子その子により漢方薬の処方がかわってきます。

漢方薬はその性質と効果からもシニア犬・老犬の体のバランスを整えながら、その子その子が持つ自然治癒力を引き出し、体を元気にしてゆく治療に適しているといえましょう。

近代医学の薬を服用してもなかなか効果が出なかったのに、漢方薬を服用してみたら症状が改善されたケースも多々あります。お話だけでも結構ですので、気になる方は一度ご相談にいらしてみてください。

一般診療について

キュティア老犬クリニックでは混合ワクチン、狂犬病予防ワクチン、フィラリア予防などの予防医療も行っております。
また一般的な薬の処方もいたします。

ただし、シニア犬・老犬のロコモーティブシンドローム(運動器症候群)の予防・改善や、中医学(東洋医学)にもとづいた鍼灸治療、漢方処方など医療を専門にしていますので、緊急時における救命処置や、手術・入院に対応する設備は用意しておりませんのでご了承ください。
2020/06/07 更新