Vol.143

犬のがん(癌)と食事で大切な悪液質予防

公開日:2023.12.05  / 最終更新日:2023.12.11
がん(癌)の犬に食事を給餌するがんの食事というと、糖質制限やデトックス食材の大量摂取等々、偏りがちなご飯に走りがちですが、大切なのは糖質・脂質・たんぱく質・ミネラルなどの各栄養をしっかりととることです。

犬の身体のエネルギーを沢山奪っていってしまう癌細胞に負けないため、そして、何よりも愛犬が楽しいと感じる時間を増やすために美味しいご飯ライフを目指しましょう。

糖質制限はしなくても大丈夫?

「がん=糖質制限」の認識はいまだに根強く、炭水化物を全く摂取させない、とりいれるとしても玄米!といったお話を頻繁に耳にします。しかし、がんの研究が進んできている今、制限とはいっても多少割合を減らす程度でよく、その割合もがんの種類や体調により変わってくるため「お芋禁止!ご飯禁止!」と完全禁止をする必要はないことが証明されています。むしろ病気で消化機能が衰えている状態で高タンパク・高脂質の食事はかえって体の負担となってしまいます。

なぜ糖質制限だったのか

糖質制限は、がん細胞がグルコースを活発に消費することに着目したワーブルク博士が1923年にマウスの細胞を用いた実験により「栄養源となるブドウ糖を枯渇させることでがん細胞の増殖を抑えた」という論文を発表したことから、臨床でも適応できるだろうと提唱されるようになりました。

「糖質制限=痩せる=デトックス」といったようなイメージもまた、世間に幅広く糖質制限論が認知される一助となったかと考えられます。

身体はそんなに単純じゃない

博士が見つけたのはあくまでも実験室での細胞単位で現象。論文発表から100年経ったいまでも「糖質制限」ががん細胞を枯渇させるという臨床的効果は犬でも人でも証明されていません。

むしろ、がんの種類によっては、エネルギーが枯渇してくると脂肪などからグルコースを既成して利用することがあることすらわかってきています。

現在、病院での栄養指導で糖質制限を行う目的は、がんに罹った身体は炭水化物を代謝する時に乳酸を産生するようになるため、乳酸代謝の為によけいなエネルギーを消耗するのを抑えるためです。そして、その糖質制限食の有効性が明確に証明されているのもリンパ腫のみとなっています。

大事なのは悪液質対策

がん細胞は正常な細胞よりも沢山のエネルギーを必要とするので、身体から沢山の栄養を奪っていきます。また、抗がん剤治療による消化器トラブルなどで食欲が減退したり、がんが進行してくると、気を付けていても筋肉や体重が減っていってしまいます。そうなってくると問題となるのが悪液質です。

悪液質って?

「悪液質」とは、がんや慢性疾患によって炎症性サイトカインが放出されて起こる病的な飢餓状態です。

大きな変化としては、
1. アミノ酸枯渇による骨格筋の減少:アミノ酸の分解促進と合成抑制により起こる
2. 代謝異常によるエネルギー消耗:糖新生及びインスリン抵抗性促進による
3. 脂肪分解促進:褐色細胞が増え白色脂肪細胞分解が促進される。褐色脂肪は増えすぎると筋肉も消費してしまう
4. 食欲低下:レプチン刺激によりおこる

といった事があるほか、疲労感や味覚・嗅覚異常などのトラブルも起こってしまいます。

こういった様々な変化によって、QOLの低下やがんの予後にも影響を及ぼしてしまうのです。

がん(癌)悪液質には多臓器・多要因が関係する引用:がん悪液質ハンドブック

悪液質対策には

悪液質はいまだ治療薬などが確立されていないので、予防と進行防止の為、カロリーがアンダーにならないこと、筋肉量を落とさないことが要となってきます。悪液質に着目した犬の療法食も発売されていますが、残念ながら脂質が多く、高齢だったり肝臓や膵臓にトラブルがある場合は使用できません。

消化しやすく、愛犬が美味しく食べることができる食事を続けること。そしてお散歩やおうちリハビリを取り入れて少しでも多く筋肉量を維持することが何よりも大切になってきます。

どちらもコツコツ継続することが大事なので、ゆる~く・楽しく取り入れられる方法を見つけられるとよいですね。

それではハッピードックライフ♪

キュティア老犬クリニック
  獣医師 横山恵理

引用:
がん悪液質ハンドブック P12 (一部変更)
http://jascc.jp/wp/wp-content/uploads/2019/03/cachexia_handbook-4.pdf

参考記事:
ガンと闘うスピッツ
https://cutia.jp/jyuuishi-inu-neko-column/inu-byouki/2018-05-19

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