Vol.128

どうする高齢ペットの口腔トラブル

公開日:2021.06.22  / 最終更新日:2023.06.29
自分のご飯のお皿と猫お家のワンちゃん、ネコちゃんの歯磨きを毎日していますか?

若い頃から歯磨きを習慣にしておかないと、シニアになって歯石が気になり始めてからやろうと思ってもきちんと歯ブラシで歯磨きをするのはなかなか難しいです。

特に小型犬は歯が弱かったり、歯石のつきやすいコが多いので注意が必要です。本当に歯石がつきやすいコですと、麻酔をかけてしっかりスケーリングを行っても1年で元通りなんてこともあります。毎年麻酔をかけて処置するわけにもいかないので、やはり毎日のお手入れが大事になってきます。

歯を抜くメリット・デメリット

キュティアに来院される患者さんの多くがハイシニアです。そのため、口腔内トラブルによる鼻水やくしゃみ、咳が非常に多く見られます。

「高齢だから麻酔をかけるのが心配」
「無麻酔で定期的に処置をしてもらっている」

などという話をよく伺うのですが、高齢だからという理由で麻酔を極端に怖がる必要はないと考えます。もちろんしっかりと全身の検査を行い、麻酔をかけても大丈夫かの判断は必要です。

そして、麻酔をかけることで肝臓や腎臓に多少なりとも負荷がかかるのは事実なので、麻酔をかけて痛い歯を抜いて痛みから解放されて、ご飯が美味しく食べられて、抗生物質などの薬も飲まなくてよくなるメリットとデメリットのどちらが勝るかによっても判断は変わってきます。

愛猫あられの場合

我が家の愛猫あられは、12歳9ヶ月の時に首をかしげてごはんを食べるようになり、前足で口をかくしぐさをしていて歯が痛そうだったので麻酔をかけて抜歯をしてもらいました。歯石はそんなについてはいなかったのですが、FORL(猫破歯性吸収病巣)という歯が溶けて痛みが出る病気にかかっていて、歯肉炎も起こしていました。

この病気は進行性で治療法はなく全抜歯するしかありません。1回の麻酔で全ての歯を抜くことは難しく半分程度残っていて、いずれまた痛みが出るだろうなと思っていました。

その後は食欲もものすごくあり元気に過ごしていたのですが、今年の2月末に突然ドライフードを食べなくなりました。この時年齢も17歳になっていたので、もう麻酔をかけて抜歯はせずにやわらかいフードでなんとか余生を過ごせないかなぁと思っていたのもつかの間。3月に入って全くごはんを食べてくれなくなってしまいました。

鼻水とくしゃみ、目やにもひどくベッドの布団が膿だらけ。。。1日3・4回マコモ液を点眼、点鼻しました。麻酔はもう無理だろうと思っていたのですが、血液検査をしたところ、17歳とは思えないほど肝臓も腎臓もしっかりしていました。(きっとマコモとコスモスラクトをずっと飲ませてきたおかげです!)

歯を抜いてみると

早急に知り合いの先生のところで犬歯以外の全ての歯を抜いてもらいました。これでまたご飯が食べられるようになると思っていたのですが、舌の裏側に扁平上皮癌が見つかったのです。

歯を抜いている猫
痛みがとれても舌がうまく動かせなくて食べにくいだろうなと思っていたのですが、翌日の夕方からちゅーるを舐めはじめ、徐々に食欲も回復し「ごはんちょうだい!」と自分のごはんのお皿をちょいちょいして催促するほど元気になりました。

舌がうまく動かせず、自分で頑張って食べるのですが口からこぼれてしまい、半分は床が食べている状態だったので、シリンジでロイヤルカナンのリキッドも飲ませていました。

たとえ短い間でも

そんなあられですが5月中旬のある日、夕飯はしっかり食べたのに寝る前のご飯を食べに来ず、シリンジのご飯も「いりません」と全く飲み込んでくれませんでした。

瞬時に、これは旅立つ準備をしているなと悟りました。その晩はお灸をしてあげてスヤスヤと寝ていました。翌朝も起き上がることはなくお水も飲まずずっとスヤスヤと寝ていました。心配でしたが、「みんなが帰るまで待っててね」と声をかけて出かけました。そして家族みんなが帰宅してなでてあげた直後、本当に安らかに旅立ちました。

あの時に麻酔をかけて歯の処置をしていなければ、こんなに安らかな最期は迎えられなかったと思います。扁平上皮癌に勝つことはできませんでしたが、たった2ヶ月ですが、痛みから解放され美味しくご飯を食べて、亡くなる前日の夜までガツガツご飯が食べられて、最期まで生ききることができてよかったなと思っています。

歯科専門医に相談してみましょう

他にも16歳以上で麻酔をかけて歯の処置をして、元気になってご飯を食べられるようになったコを今までたくさん見てきています。歳だからという理由だけで判断をするのではなく、迷ったらぜひ一度歯科専門医に相談してみてください。

もし麻酔をかけての処置が難しい場合でも、マコモの液で歯磨きをしたり、口の中を洗うと歯肉炎がよくなったり、歯周病による鼻水に効く漢方などもありますので相談してくださいね。

それではハッピードックライフ♪

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キュティア老犬クリニック
  獣医師 佐々木彩子
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