Vol.139

シニア犬の認知症予防には睡眠が大切

公開日:2023.04.03  / 最終更新日:2023.10.28

認知症予防には睡眠が大切

「老犬の認知症予防に良いサプリメントはありますか?」とのご質問をよく受けますが、残念ながら、10年近く老犬クリニックで様々な症例を診ていて「これぞ特効薬!!」というような決定的なサプリメントに出会えたことがまだありません。

「睡眠」が脳の健康のカギ

以前より、シニア犬の脳を健康な状態に保つのにはサプリメントよりもお散歩や美味しいご飯、家族との触れ合いをしっかりと楽しんで日々を過ごすことが大切であるように感じてきました。

実際、近年のマウスや人での研究により、脳の健康を保つためには「質の良い睡眠」を確保することが必要ということが分かってきています。そして、睡眠の質を上げるためには、先ほど挙げたような楽しい日々を送ることが重要であることもまた、判明してきているのです。

「脳内のゴミ」で認知症に

認知症の原因についてはまだわかっていないことも多く様々な仮説がありますが、アミロイドβなどのたんぱく質のゴミが大きな要因の一つと考えられています。アミロイドβは通常短時間で排出されるのですが、排出がうまくいかず蓄積してしまうと神経の機能障害や細胞障害を引き起こしてしまうのです。

脳の排毒のメカニズム

脳の排毒の為に大切なのは、睡眠が深くなりノンレム睡眠状態になることです。ノンレム睡眠では、脳が休息状態となるので脳血流量が低下します。すると、血流分を補うように脳脊髄液が大量に脳に流れ込みます。その脳脊髄液がまるで洗い流すかのように、脳に蓄積されたβアミロイドなどのゴミを排除していくのです。

夢を見ることもないような深い眠りであるノンレム睡眠は、日中に起きた「嫌な記憶」を消去し、そのあとに続くレム睡眠での記憶定着にも必要であることが分かっています。ノンレム睡眠は様々な意味において、脳を健康的な状態に保つためには欠かせないものなのです。

ノンレム睡眠に必要な3つの要素

ノンレム睡眠に必要な3つの要素出典:厚生労働省e-ヘルスネット
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-01-002.html

睡眠が深くなるためには、3つの要素が必要といわれています。すべての要素を整えることは認知症の予防だけでなく、シニア犬の加齢に伴う夜間頻尿や、老犬の認知症となってからの夜鳴きの改善にも大切です。
 

脳の温度の低下

深い睡眠の為には、手足からの熱放散により、脳の温度を下げる必要があります。しかし、血液循環が低下して手足が冷え切った状態では身体の深部温度が下がらず、しっかりと脳を休めることができません。血液循環を確保するためには、日中しっかりと大きな関節を動かして活動すること、そして温活をすることが大切です。

部屋の中だけでの生活では歩幅の狭い歩行しか行わないので、

・肩甲骨を動かして手を前に出す
・股関節を動かして膝をしっかり上げる

といった動作を行わずに過ごしてしまいます。長時間や走るなどの激しい運動でなくても大丈夫。なるべく段差や坂道なども取り入れたお散歩を楽しむことでちゃんと血流改善につながります。お散歩があまり得意でない、シニア犬となり歩行が難しくなってきているなどの場合は抵抗運動でも充分な効果を得ることができます。

温活については、シニア犬では、腹巻をつけて下腹部が冷えないようにしたり、小豆カイロや米ぬかカイロ、お灸などで腰を温めるのがよいでしょう。カイロやお灸のタイミングとしては、夕方以降に行うのがより効果的です。老犬で認知症が出てきたり、癲癇や前庭疾患といった「のぼせ」の症状がある場合は、頭に保冷剤をあてる、蒸しタオルで拭いて気化熱で冷やすなどの物理的に頭部の熱を冷ます効果を加えるとよいでしょう。

ストレスケア

ストレスを感じると分泌される副腎皮質ホルモンは、外敵から身を守るために睡眠を抑制して身体を緊張させる働きがあります。しかし、なんとも矛盾していることに、このホルモンの分解は睡眠中に行われるのです。

いつでも楽しく過ごせるのが理想的ですが、生きているとなかなかそう上手くはいきません。また、老犬も認知症となった後では、通常よりもストレスを感じやすい状態となっています。そんな時は「心身相関」の観点からアプローチするのも効果的です。「心身相関」とは、身体と心はお互いに影響し合うという考え方です。

つまり、身体を緩めることがストレス状態を軽減することにもつながるのです。ストレスを感じているときやステロイドホルモン薬で興奮が強くなっているときは、ストレッチやマッサージで身体を緩めるとよいでしょう。これは、血液循環改善にも効果があり、脳の温度を下げる効果も期待できます。

メラトニンがしっかりと分泌される

メラトニンは、脳の松果体といわれるところで分泌されるホルモンです。加齢に伴い分泌が減少することや、睡眠の14時間前に日光をしっかり浴びることが必要というのは一般的にも知られています。しかし、深い睡眠を得るためにはもう一つ、重要な要素があるのです。

それは「睡眠時の血糖値の安定」です。メラトニンはセロトニンから作られるのですが、そのセロトニンの材料となるトリプトファンを脳に送るにはブドウ糖が必須なのです。夜ご飯がかなり早い時間となっているときや、認知症で常に徘徊してエネルギー消費が激しい時などは、寝る少し前にごくごく少量の蜂蜜をなめさせてあげてください。

メラトニンはサプリメントも存在しますが、他の2つの条件がそろわない状態で摂取しても、悪夢をよく見る・寝ても疲れが取れないなど、十分な睡眠の質を確保することはできません。3つの条件を整えてシニア犬となっても快適な睡眠ライフを送り、脳の健康を維持しましょう。

それではハッピードックライフ♪

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