Vol.140

梅雨時期の老犬に起きやすいトラブルと対処法

公開日:2023.06.02  / 最終更新日:2023.10.28
梅雨の外をながめる老犬梅雨は1年で最も雨が多く湿気も多い季節です。梅雨の時期を東洋医学では長夏と呼びます。梅雨のジメジメとした湿気は邪気(湿邪:しつじゃ)として老犬の体内に取り込まれてしまいます。それらが原因となって梅雨の時期になると様々な不調を訴える老犬が多くなります。

老犬にも湿邪は負担に

体の約2/3は水分で構成されています。その体内の水が湿邪に侵されると血液の循環や気の巡りが滞り、体が冷えやすくなります。冷えると体の水分が発散されにくくなり、また水がたまりやすくなるという悪循環に陥ります。そしてなかなか体内から出ていかないため東洋医学では「湿はしつこい」などと言われているのです。

湿邪は老犬の弱いところ、滞りのある場所にたまりやすいと言われています。主には胃腸に停滞しやすく、脾胃の働きを低下させ、食欲不振や下痢などを引き起こします。関節にたまると足が重だるくなり、関節痛や腰痛をもたらします。肺にたまると痰がらみの咳が出たり、皮膚にたまった場合は湿疹や皮膚炎を引き起こします。

その他にも梅雨時期に老犬に起こりやすい症状として前庭疾患やてんかん発作、認知症症状の悪化などもあります。これは湿邪により脳が浮腫(むく)んでしまうことが関係しています。また寒暖差や梅雨前線による気圧変動によって自律神経のバランスが乱れ、イライラしたり気が頭の方向に上がりやすくなってのぼせてしまうことが原因と考えられています。

梅雨の不調「湿邪」の対処法

「水分バランスの乱れ」と「自律神経の乱れ」この2つの乱れが様々な梅雨の不調を引き起こすのです。ではこれらにどのように対処したらよいのでしょうか。

1. 室内の湿度を下げる

部屋の湿度を50%前後に保つようにしましょう。エアコンの除湿機能は室温が下がり過ぎてしまうがことがあるので注意が必要です。除湿器で除湿し、エアコンで温度調節するのもおすすめです。老犬にエアコンの風が直接あたらないようにしましょう。

2. 体を冷やし過ぎない

「湿」が体にたまると代謝が悪くなり冷えやすくなります。先述のように冷えると湿がたまりやすくなってしまうという悪循環になります。

外気の湿度が高いと呼気で水蒸気として熱が発散しにくくなるので体が熱いと判断したり、自律神経のバランスの乱れからのぼせてしまい、シニア犬も老犬も冷たい床で寝たがったりします。するとお腹や下半身が冷えてしまい脾胃や腎の働きが悪くなり湿がたまってしまうので、梅雨の時期に特に注意しましょう。

そこでおすすめなのが腹巻です!暑くてハァハァしている時は頭や首、胸などの上半身は冷やし、下半身は腹巻や棒灸であたためてあげましょう。そうすることでのぼせも改善しやすくなり、むくみ対策にもなります。

参考記事: 犬の温活にも腹巻を使おう!
https://cutia.jp/jyuuishi-inu-neko-column/sinia-inu-rouken/2021-09-22

梅雨の中でも散歩する犬

3. しっかり運動をする

梅雨が続くとお散歩へ行けず、運動不足になりがちです。筋肉内には多くの水分が含まれているのでしっかりと動かすことが大事です。また、手足を動かすことで胃腸の働きも活発化するので余分な水の排泄に役立ちます。

雨でも外で歩いてくれるコは良いのですが、どうしても雨で外へ行かれない時には、室内で障害物をまたいで歩かせたり、オスワリ→タッテ→フセなどを繰り返すのでも0Kです。あまり動けないコの場合には抵抗運動もおすすめです。

参考記事: 犬のお家ケアには抵抗運動がオススメ
https://cutia.jp/jyuuishi-inu-neko-column/inu-seitai/2022-10-25

とうもろこしのヒゲ

4. 利水作用のある食材をとる

師匠の言葉で「食べるものは大薬、お薬は小薬」というものがありました。身体を整えるのはまず毎日食べている食事から。それでも改善しない時にだけお薬を使いましょうというものです。

薬膳というと難しく感じてしまいますが、身近な食材1つ1つに梅雨の時期にも効能や性質があるのです。利水作用のある食材として老犬でも取り入れやすいのがハトムギやトウモロコシ(とくにヒゲの部分)です。どちらも市販のお茶を少し薄めて飲み水として摂取したり、フードをお茶でふやかしていただくのも良いでしょう。

大豆や小豆などの豆類や緑豆春雨は利水作用の他に補腎作用もあるため老化予防にもおすすめの食材です。冬瓜やきゅうりなどのウリ科の野菜はとても利水効果がありますが、体が冷えやすいので老犬の場合は冬瓜を加熱して与えてもらうと良いでしょう。

その他にもシソやショウガなどの香味野菜も胃腸の働きが良くなるので、食欲がない時などにおすすめです。すごく体が冷えやすいコや涼しくなってきてからの湿対策にはローリエの葉がおすすめです。お肉や野菜をゆでる時に入れていただくだけで手軽にむくみ対策ができます。

鍼灸治療をした犬

5. 鍼灸治療や漢方薬を併用する

おうちケアをしっかり取り入れていてもやはり「湿邪によって調子が悪くなってしまうこともあります。その場合は鍼灸治療で水の代謝に関わる「肺、脾、腎」の働きをしっかり整えてあげる必要があります。お家でも棒灸でお腹~下半身を中心に温めてあげると水の動きがよくなります。

そして、梅雨の時期に最も使われる漢方薬が「五苓散(ごれいさん)」です。五苓散は西洋薬の利尿剤と違って、電解質バランスが乱れることもほとんどなく、また利尿剤のように脱水していてもどんどん体から水分を出してしまうようなこともなく、水分バランスを整えてくれるため、腎臓の悪いコにも使いやすい利水薬なのです。水を動かすことで全身の巡りをよくする効果が期待できます。

このようにシニア犬、老犬にもおすすめのおうちケアを取り入れて、梅雨~夏にかけてやってくる湿邪を乗り越えましょう!

それではハッピードックライフ♪

関連記事:
犬も梅雨の湿邪(しつじゃ)に備える
https://cutia.jp/jyuuishi-inu-neko-column/inu-byouki/2019-05-25

キュティア老犬クリニック
獣医師 佐々木 彩子
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