四君子湯(しくんしとう)

漢方薬の生薬朝鮮人参の実

(画像はチョウセンニンジンの実)


四君子湯は五臓の「脾」と「肺」の気の不足(気虚)を補う『補気剤』の中でも最もべーシックな方剤です。平淡で偏りがないので、多くの補気剤の基礎となっています。

漢方解説

【主治】脾胃気虚(ひいききょ)

臓腑の機能が低下することによって発生する「気虚証」の中で、特に胃腸が弱っているときに使用します。

生き物は食べたものからエネルギーを吸収し、臓腑や器官を動かすエネルギーとしています。しかし、どれだけ栄養バランスに気を配っても、食べ物や水分を消化吸収して身体の隅々の細胞に送り届ける機能が十分でなければエネルギー不足となり、身体に不調が起きてしまいます。

【効能】益気健脾(えっきけんぴ)

東洋医学では、消化吸収は五臓の中では「脾」が担っていると考えています。この「脾」の気を補うことで、食べたものの栄養を取り込みエネルギーとして活用する働きが正常に行われるように手助けをします。

【適応症状】

肺脾気虚(はいひききょ);顔色が悪い・声に力がない

「脾」で作られた気は五臓の「肺」によって全身に巡らされます。このめぐらせるという力が十分でないと肌につやのない。血色の悪い顔色になってしまいます。また、うまくお腹に力をいれることができず、張りのある声を出せなくなってしまいます。

運化失調(うんかしっちょう);胃もたれ・軟便・食欲不振

食べたものを消化吸収する作用を東洋医学では「運化」と呼びます。この機能がうまく働かないので各種消化器症状が起きてしまいます。

 
不主四肢(ふしゅしし);疲れやすい・力が入らない

身体を動かすために必要な気が不足しているためおこります。

生薬配合

「君・臣・佐・使」の配合原則の意味を参照する

【君薬】人参;大補元気(たいほげんき)・健脾胃(けんぴい)

人参はチョウセンニンジンの根を乾燥させた生薬です。

君薬となる人参チョウセンニンジン

補気薬。生き物の生命活動の原動力となる最も根本的な気、「元気」を補う効果がある。脾気虚証の治療には白朮や茯苓等と配合して用います。

【臣薬】白朮(びゃくじゅつ);健脾燥湿(けんぴそうしつ)

白朮はオケラやオオバナオケラの根茎です。 臣薬となる白朮オオバナオケラ

補気薬。補気健脾(ほきけんぴ)の要薬といわれる。補気だけでなく、燥湿利水作用もあるので、脾虚からくる水湿停滞による痰飲に茯苓等と配合して用います。

【佐薬】茯苓(ぶくりょう);滲湿健脾(しんしつけんぴ)

茯苓はサルノコシカケ科のマツホド菌の菌核を乾燥し外皮を取り除いた生薬です。

佐薬となる茯苓マツホド菌の菌核

脾気虚が長く存在すると「痰湿」が生まれてしまうので、白朮とともに「湿」を取り除くことで君薬である人参の働きを支えます。

利水滲湿薬(りすいしんしつやく)。健脾の効能があるので、脾虚による倦怠感・食欲不振・軟便の治療に白朮・甘草等の補脾薬と配合して用います。

【使薬】炙甘草(しゃかんぞう);調和諸薬(ちょうわしょやく)

炙甘草(しゃかんぞう)はウラルカンゾウやスペインカンゾウの根を乾燥して炒めた生薬です。

使薬となる炙甘草スペインカンゾウ

補気薬。人参・白朮などの補薬を用いる際に甘草を配合すると、その補う力を緩やかで持久力のあるものにすることができます。

四君子湯は補気剤の基本

上記4つの生薬が君子のように素晴らしい働きをするので「四君子湯」と呼ばれているのですが、一般の病院でも使いやすく調整する必要のあるエキス剤ではこれに副作用軽減のための「生姜」と「大棗」が加えられています。

補気剤の基本となる四君子湯ですが、単品処方で用いられることはあまり多くありません。他の方剤と組み合わせるか、六君子湯・補中益気湯のようにいくつかの生薬を加減配合した方剤として処方されています。

キュティア老犬クリニック
獣医師 横山 恵理