Vol.152

シニア犬のホルモンバランスの乱れも東洋医学で治療

公開日:2025.06.04
シニア犬のホルモンバランスの乱れを東洋医学で治療

西洋医学からみたホルモンの病気

シニア犬になると多くなってくるホルモンバランスの乱れ。なかでもシニア犬に多いのが甲状腺機能低下症と副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)です。

甲状腺機能低下症でよくみられる症状

・なんとなく元気がない、寝ている時間が長くなる
・ごはんの量は変えていないのに太ってきた
・歩きたくない
・毛が薄くなってきた(脱毛)
・皮膚が黒ずんできた(色素沈着)
・皮膚トラブルを起こしやすくなった
・手足が冷たいことがある(体温低下)

甲状腺ホルモンは代謝に関わるホルモンなので下がってくると老化と似たような症状が現れます。

副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)でよくみられる症状

・飲水量が増えてオシッコもたくさんする(多飲多尿)
・食欲が増す
・皮膚や毛が薄くなる
・筋肉量が減少してお腹がたるむ

副腎皮質ホルモン(コルチゾール)は炎症や免疫を抑える働きがあります。タンパク質を分解して、糖に変換する作用があるので、過剰に分泌されると筋肉中のタンパク質が分解されて筋肉が落ちてしまいます。また、インスリンの働きを抑えるので、糖尿病の併発にも注意が必要です。

西洋薬でよく使われる「ステロイド剤」は副腎皮質ホルモン剤です。そのためステロイドを使用するとクッシング症候群と同じような症状が現れたり、長期使用することでクッシング症候群になってしまったりします。(医原性クッシング)

ホルモン疾患の治療法

ホルモン剤の使用は慎重に!

ホルモンの病気は血液検査(ホルモン検査)によって見つけることができます。さらに詳しい原因を探るために特殊な検査や画像診断を行うこともあります。検査でホルモン異常が見つかった場合、薬で治療することになります。

ここで気を付けたいのがホルモン検査で異常がわずかであったり、明らかな症状がないのにホルモン剤を投薬すると逆に身体の負担になってしまう可能性があるということです。

例えば甲状腺機能低下症の場合は老化と同じような症状が出るとお話しましたが、身体はバランスをとるためにあえて活動(代謝)を抑えている場合もあるのです。そのような時にホルモン剤を投与すると体にムチを打って動かすようなことになってしまうのです。

またクッシング症候群は検査でグレーゾーン、判断に迷う結果がでることもありますが、この段階で投薬してクッシング症候群と反対の副腎皮質機能低下症(アジソン病)になってしまったコもいます。ホルモン剤の投薬は数値だけを見るのではなく、身体全体を見て慎重に量を調整する必要があるのです。

東洋医学ではどう治療する?

ホルモンバランスの調節には「肝」が大きく関わっています。ストレスなどでホルモンバランスが乱れてしまうのも「肝」がストレスの影響を受けやすいからです。肝は気の動きの調節をしている蔵=代謝に関わっているので特に甲状腺ホルモンは肝の影響を受けます。

また、ホルモンバランスは「肝」だけでなく「腎」も影響します。甲状腺機能低下症は老化に似た症状が現れますが、東洋医学では老化現象は腎の衰えからくると考えられています。副腎のトラブルは副「腎」とつくこともあり、腎が深く関わっています。

つまり、鍼灸治療で肝気の動きをのびやかにし、補腎を行うことでホルモンバランスを整えることができるのです。鍼灸治療を頻繁に行うことが難しい場合は漢方薬の処方も行いますが、中でも最近とてもホルモン疾患の改善に効果があると実感する漢方生薬(サプリメント)があります。

脱毛が改善された多くの症例

トイプードルもホルモンバランスが整い脱毛が改善今年15歳になるトイプードルのそらくんは10歳頃から糖尿病とクッシング症候群を発症して投薬していました。その他にも白内障や足腰の弱りなどの腎虚の症状もその頃から出ていました。3週間に1回の鍼灸治療と整体で足の調子は良くなったものの、脱毛や皮膚トラブルがなかなか改善しませんでした。

そこで免疫バランスやホルモンバランスを整える生薬を飲んでいただいたところ、飲み始めて2週間位で皮膚の状態が改善して、毛も全体的にうっすらと生えてきました!

ちょうどそのころにクッシングの影響から会陰ヘルニアになってしまいました。根治のためには外科手術しかないけれどクッシングと糖尿病を併発しているため麻酔リスクが高いのと、傷の治りも悪いので傷口がふさがらない可能性があるということで、かかりつけ医では手術は難しいと言われてしまいました。

幸いにも、手術してくれる病院が見つかり手術をすることになりました。手術した病院で麻酔中も血糖値がずっと安定していたことに先生が驚かれたようでした。生薬の効果か、心配していた傷の治りもよく、通常通り抜糸も行うことができました。

ところが喜んでいたのも束の間、麻酔の影響から腎臓の数値がものすごく上がってしまいました。今は鍼灸治療の間隔を1週間に1回にして少しずつですが体調が回復してきています。通常これほどの高値になると口臭が尿毒素の臭いがするのですが、そらくんは全く腎不全特有の口臭がありません。まだ漢方生薬を飲み始めて2ヶ月位ですが様々な効果を実感しています。

同居犬のトイプードルのうみちゃんも同じくクッシング症候群の持病があり、最近糖尿病も併発してしまったためインスリンの効き目を高めてくれるこの生薬を飲んでもらっています。

柴犬も薄毛が改善

薄毛の柴犬に漢方生薬を飲んでもらったその他にもホルモン検査はしていないけれど、ホルモンバランスの乱れがありそうな薄毛の柴犬にこの漢方生薬を飲んでみてもらっています。飲み始めて1ヶ月で毛量がとても増えました。特に鍼灸治療と合わせることでより効果が出やすいと感じています。

鍼灸治療を併用する事で薄毛が改善した柴犬
この漢方生薬は免疫バランスを整えるとともにがん細胞のアポトーシス(細胞の自然死)を誘導する働きがあるため今まではガンのコにおすすめしていたのですが、ホルモン疾患、糖尿病にもとても有効であると実感しています。

ホルモンバランスの乱れはあるけれど、まだホルモン剤を使うほどではないコや薬を使っていてもなかなか症状が安定しない場合はぜひ一度ご相談を。

それではハッピードッグライフ♪

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キュティア老犬クリニック
獣医師 佐々木 彩子
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