難治性てんかんって?
複数の抗てんかん薬を服用しても発作をうまく抑えることができず、生活に支障をきたしてしまうてんかんは「難治性てんかん」と呼ばれています。
西洋医学的なてんかんの分類
犬のてんかんは、臨床病理学的検査で脳に異常が認められない「特発性てんかん」と、腫瘍や脳血管障害など、てんかん発作の原因・誘因として脳に何らかの器質的病変が認められる「構造的てんかん」に分類されます。
「構造的てんかん」は手術などで原因を取り除かない限り発作を完全になくすことができません。そのため東洋医学的アプローチは発作の頻度を減らしたり、日常生活に支障が起こらない程度に発作を弱めたりするお手伝いしかできません。
しかし「特発性てんかん」の場合、抗てんかん薬の種類を減らしたり、発作を抑えることに有効な手段となることもあるのです。
東洋医学的にみたてんかん
「癲(てん)」は意識の消失や硬直性けいれんを伴う大発作を指します。そして「癇(かん)」は身体の一部の硬直、運動失調、情緒不安で意識のある小発作を指します。
これらはストレス・先天的要因・疲労の蓄積・臓腑の失調などにより臓腑の水液の巡りが停滞することで生じた「痰湿(たんしつ)」を過労や不摂生、過重なストレスからの解放などがのぼせとなって頭部に上逆させることで生じると考えられています。
つまり、水液や気の巡りを整えることが発作を抑えることにつながるのです。
また、てんかんが長引いて治癒しなければ、臓腑に疲れが蓄積して「痰濁(たんだく)」がさらに凝結して「頑痰(がんたん)」となってより再発を繰り返しやすくなるとも考えられています。そのため、「頑痰」となる前にこまめお家ケアで巡りを促すこともてんかんケアの大切なポイントになってきます。
お家ケアで激変のハスキー
今回ご紹介する4歳のシベリアンハスキーのアルフィー君が来院したのは、まだ3歳だった今年の4月。それまで抗てんかん薬により月に一度に抑えられていたてんかん発作が4月に入り毎日のように繰り返すようになってしまった為、何かできることはないかと訪れたのでした。
保護されてから2週間ほどで発症
アルフィー君はもとは保護犬。1歳11ヶ月の時に今のお家にお迎えされてすぐ、おうちに慣れてきたころからてんかん発作を繰り返すようになっていました。
それまで過ごしていたブリーダーのところではずっと体格に合わない小さなケージに閉じ込められていたようで、おうちでのびのび過ごせるようになっても眠るときにはギュッと前足を身体の下に折り込んで眠る癖が抜けていませんでした。
3歳なのに全身ガチガチ
アルフィー君は初診時、長い間縮こまって過ごしていた名残で身体の前面の筋肉のこわばりが強く、肩から腰までどこを触っても硬い状態でした。そして、そのせいで血液やリンパ液の循環が滞って偏ったむくみが出たり、大人なのにぽわぽわとした産毛のような細い毛しか生えていませんでした。
気鬱化火(きうつかか)
さらに詳しく身体の状態を診ていくと、白目の色が全体的にくすんだピンク色で、脉は浮いていました。東洋医学では、気の巡りの停滞が悪化して熱邪をなることを「気鬱化火」とよび、炎症などの様々な病気の原因となると考えています。
アルフィー君は2年近くの長い間狭いところに入れられて心身ともに縮こまったまま固まってしまったことがこの「気鬱化火」を引き起こし、停滞して「湿」となった体液をその熱で煮詰めた状態が続き「頑痰」を生じてしまっていたようです。
そして、春の季節となり「肝」の上昇する力が強まったことで発作を止められなくなってしまったのだと考えられます。
東洋医学ケアでリラックス
長い時間をかけてこわばったまま固まってしまった心と体を負担をかけずにほぐすには、少しずつ時間をかけてやさしい刺激を加えていく必要があります。また、アルフィー君はまだ若く筋肉の弾力も戻りやすいだろうと考え、初回の施術は刺激の極々弱い小児鍼と整体を行い、そこに毎日のお家マッサージで「頑痰」を流していく手助けをすることにしました。
日常生活にも変化が
東洋医学ケアをはじめてから発作が抗てんかん薬を1種類に減らしても発作が起きなくなったアルフィー君ですが、てんかん以外にも様々な変化が起きてきました。
こわばった顔がふっくらとゆるみ、全身の毛ぶきがよくなっただけでなく、犬らしい意思表示や階段の上り下りができるようになるなど、どんどん本来の犬らしい生活を取り戻していっています。
飼主さんが毎日のマッサージを頑張ってくださっているおかげで、今は施術の頻度も2か月に1度でよくなり、楽しく過ごせるようになったアルフィー君。これまで心身ともに押し込めてきた分、のびのびと楽しい生活を満喫してくださいね!
それではハッピードックライフ♪
獣医師 横山恵理