東洋医学の基本の一つ「陰陽論」
「陰陽」って何?
東洋医学では陰陽論と五行論をもとに弁証(診断)と治療を行っていきます。
陰陽とは自然界の様々な事物や現象を相互に対立する二つとしてまとめた概念です。陰陽は上と下、明と暗、静と動、など対立関係にある一方で、お互いに依存する関係でもあります。つまり、陰と陽はどちらか一方では存在できず、下(陰)があるから上(陽)も存在しているのです。
また、夜明けとともに陽が昇り陽気が満ちて行き、夕方には陽が沈んで陰気が増して夜を迎えるのも陰陽が増えたり減ったりしてバランスをとっているのです。
これを1年で考えると春から夏にかけて陽気が満ちていき、秋から冬にかけて陽気が段々と減って陰気が満ちていくのです。
今年は特に「陰虚」に注意!
本来、立冬から冬至にかけて陰気が最も増えるのですが、今年は11月になっても異常な暖かさで12月に入り少し寒い日も出てきましたが、例年に比べると暖冬でした。「過ごしやすくて良かった~」で済んだら良いのですが、それがそうはいかないのです。冬の寒さで養われるはずの陰が体の中でも不足してしまうのです。
犬の体の中の陰が不足している状態を「陰虚」と呼びます。陰虚になるとどのような症状が現れるのでしょうか。体全体的に陰が不足している場合でもそのコの弱いところに強く症状が現れたりするため、犬によってそれぞれ症状は異なります。
犬が陰虚になると
どんな症状があらわれる?
腎が弱っている犬に最も現れやすいのが腎陰虚です。腎陰は水の力で熱を冷ましたり、鎮静作用や痒みを抑えたりする働きがあります。腎陰が不足すると、熱が冷ませなくなりのぼせやすくなります。すると肝陽が上昇しやすくなり、ふるえやてんかん発作や前庭疾患などが起きやすくなります。肝腎陰虚によって筋骨がしなやかに動かなくなるため足腰のトラブルも起きやすくなります。虚熱がさらに進行すると心陰不足を引き起こし、不眠や心拍数の上昇、発熱などがみられるようになります。
また東洋医学では「血虚生風」という言葉があります。陰血が不足することで体の中で「風」が生まれます。「風」はけいれんやてんかん発作のような揺れる症状をもたらしたり、皮膚のかゆみも引き起こします。「陰」=うるおいが不足するため皮膚が乾燥して痒くなったり、ドライアイも起こりやすくなります。犬の花粉症症状の多くは皮膚トラブルとしてあらわれるので、今年は花粉症にも要注意です。
陰虚症状の改善に効果的な対策
まずは食材で陰を養ってくれるものを取り入れてみましょう。豚肉は滋陰、補気補血、補腎作用があり、身体を温める作用がないため一年中使いやすく、のぼせやすい犬にとてもおすすめです。卵も滋陰、補血作用があるため食欲がない時などに卵粥にしてあげるのもおすすめです。(卵は必ず加熱してから与えましょう)
その他に漢方の生薬でもあるクコの実は肝と腎の陰を養ってくれるためドライアイにいいとされています。なつめ(大棗)は補血作用があり皮膚の乾燥や痒みの軽減、胃腸の働きを助ける働きがあります。クコの実となつめを軽く煮出したお白湯を飲み水として飲んだり、お肉やお野菜をゆでる時に火をとめる少し前に入れていただくのも良いです。なつめは種があるので実を与える場合は種を取り出してから与えましょう。
その他の対策としては対症療法になってしまいますが、のぼせていて体に比べて頭が暑くなっている場合は頭に保冷材などをあてて冷やしてあげたり、頭頂の毛を軽く水で濡らして風をあててあげるのも良いでしょう。
皮膚トラブルが起きていたり、乾燥して痒い場合はこまめにセラミド入りの保湿スプレーをかけてあげましょう。
ミニチュアピンシャーのあらしくんは昨年も乾燥の始まる秋頃から皮膚のかゆみが増し、乾燥してフケが出てしまったり、掻いて毛が薄くなってしまったりしていました。夏になると良くなっていくのですが、今年も11月頃から痒みが再発してしまいました。皮膚の乾燥がとても強く、痒がっていたので毎日の保湿ケアと清熱剤と補血剤を合わせた漢方を飲んでいただきました。すると真っ赤だった皮膚はきれいになり、痒みも治まってきました。
2月は肝のトラブルが起きやすい季節です。てんかん発作やアレルギー症状が出やすい時期です。また今年は体の熱が冷ましにくくなっているため春先でも熱中症になってしまう可能性があるため注意しましょう。お家でできるケアを取り入れつつ、鍼灸治療や漢方薬で体調を整えていきましょう。
それではハッピードックライフ♪
獣医師 佐々木 彩子