今回は、質問をいただくことも多い「火鍼」についてご紹介したいと思います。
火鍼(かしん)って何?
「火鍼」とは鍼の先端を炎で赤くなるまで炙ってツボや患部を刺す技法です。
お灸には艾(もぐさ)を直接皮膚に置き軽いやけどを起こす「有痕灸(ゆうこんきゅう)」と、皮膚に痕を残さない適度な温熱刺激の「無痕灸(むこんきゅう)」に分けることができます。
現代で使われるお灸のほとんどはぽかぽかと温かく快適な「無痕灸」なのですが、温めと補気の効果がほとんどで、寒邪や瘀血(おけつ)を吹き飛ばすほどの強い効果を得ることはできません。だけど「有痕灸」は熱くてちょっと痛いし身体への負担も大きく、熱さを感じない大きなイボの上などでないと使うのは難しいのです。
火鍼にはこんな効果が
そんな「有痕灸」の「散寒瘀血」効果を持ちつつ身体への負担もほとんどないのが「火鍼」になります。ツボや患部に直接温熱刺激を伝えることができるため、
・身体の陽気を高める
・正気を強める
・経絡を活性化して臓腑を調整する
・瘀血を散らすことで腫瘍を散らしたり
・ヘルニアや癌の痛みを止める
などの様々な効果を得ることができます。また、極々細い鍼を使用するので痕もほとんど残ることはありません。
「刺す」とはいうものの、犬や猫は人間より身体が小さく刺激もごく弱いもので十分なので、通常治療でツボに使う場合は一瞬針先が皮膚に触れる程度にとどめます。とはいえ、しっかり鍼の根元まで刺すこともあります。それはイボや腫瘍に使用するとき。軽い火傷を起こしてたんぱく質を変性させることで身体がイボや腫瘍を異物と認識させ、免疫反応を誘発することができるのです。
同じように蛋白質変性による治癒反応を利用するのが「床ずれ」の治療。患部周囲にぐるっと火鍼を行うことで傷の修復機構を誘発し、通常の湿潤療法では傷がふさがるまで1か月ほどかかるのを、10日程に短縮することができます。
思いもよらぬところに!
そんな効果絶大の「火鍼」。日ごろから治療効果を目の当たりにしてはいるのですが、先日改めてその温熱効果を自身で体感したトラブルがあったので最後に紹介させていただきます。
いつも通り火鍼の施術を行おうとした際、わんちゃんが動いて自分の左膝にしっかりと刺してしまいました。そのときは痛みも熱さも感じなかったのですが、その夜、入浴中にやけに左足だけ温いので改めて見てみてびっくり!
膝周り全体が明らかに真っ赤になっていたのです。見た目は炎症かはたまた火傷か・・・といった感じですが、とにかくぽかぽかと心地よい温かさに包まれているだけ。なんとも不思議な体験となりました。
それではハッピードッグライフ♪
獣医師 横山恵理