四物湯 しもつとう

(当帰(トウキ)、セリ科の花)
四物湯は体内を流れ、生命を維持する赤い液状物質「血(けつ)」が不足して起こる「血虚(けっきょ)」の病証と治療する、補血剤の基本方剤です。
漢方解説
【主治】
営血虚損(えいけつきょそん)血は脈管中を循環して全身の臓腑、組織器官に栄養を届けたり、筋肉と皮膚を滋養する働きをしています。損傷や気虚により脈管から大量の血が漏出してしまうと、こういった生理機能を発揮できなくなります。
また、血は精神意識活動の基本物質でもある為、物事を考えこみ過ぎることで消耗してしまうこともあります。
経穴と経穴をつなぐ経絡において、十二経脈とともに重要な役割を果たす奇経八脉(きけいはちみゃく)に属し、婦女の月経に大きくかかわる衝脉(しょうみゃく)と任脉(にんみゃく)の気の運行が不十分になると、月経不順や生理痛といったトラブルが生じます。
【効能】補血調血 (ほけつちょうけつ)
補血・養血の生薬を主に配合することで、血を増やして脈管での運行を整えます。
【適応症状】
眩暈心悸(げんうんしんき)立ちくらみや動悸がおこります。
面色無華(めんしきむか)顔色が淡白で色艶がない事。末端の管脉に血が行き届かず、皮膚を滋養できなくなって生じます。
多夢失眠(たむしつみん)「心」の血を通す働きも、「肝」の血を貯蔵する働きも、充分な量の血がなければ正常に機能できません。血虚が起こると「心」と「肝」が大きく関与する精神活動にも不具合が生じてしまい、眠りが浅く夢をよく見る、寝つきが悪いといった睡眠障害がおこります。
月経不調・月経腹痛血虚により衝脉の気が不足すると、月経の量が少ない・経血の色が薄い・周期の遅延などが起こります。また、そこに冷えが加わると下腹部や腰に痛みが生じます。
生薬配合
「君・臣・佐・使」の配合原則の意味を参照する【君薬】
熟地黄(じゅくじおう): 補血滋陰(ほけつじいん)益精補髄(えきせいほずい)
ゴマノハナグサ科、地黄Rehmannia glutinosa Libosch.の根を干してから酒を加えて蒸したもの。
補血薬。血を養うだけではなく、腎陰も補うこともできる補血の要薬。生地黄や乾地黄より粘膩性(ねんじせい)が強いため、必ず補脾薬や健脾薬と一緒に使う必要があります。

当帰(とうき): 補血活血(ほけつかっけつ)
セリ科 当帰Angelica sinensis Diels. の根。
補血薬。血虚の治療効果に優れた補血薬です。また、活血作用が冷えと瘀血による痛みに優れた効能を発揮するので婦科調経の要薬とされています。

【臣薬】
芍薬(しゃくやく): 斂陰養血(れんいんようけつ)緩急止痛(かんきゅうしつう)
ボタン科 芍薬 Paeonia lactiflora Pall.の根。
補血薬。熟地黄と当帰の養血和血の作用を強めます。斂陰作用により血や津液の漏出をおさえることができます。

【佐薬】【使薬】
川芎(せんきゅう): 活血行気(かっけつこうき)
セリ科 川芎 Ligusticum chuanxiong Hort. の根茎。
熟地黄は粘膩作用が強く瘀血を生じやすい為、血中の気を調和し活血する川芎により当帰の活血作用を強めます。

治血の要剤
4つの生薬の配合が、補血しても滞ることなく、行血しても破血しないという素晴らしい効果を生み出します。血虚証の治療には全てこの四物湯の加減処方により対応しているといっても過言ではありません。
ただし、血虚はストレスによる肝の疲れや腎虚・気虚・循環阻害などほかの不調に伴って発生することが多いので、基本方剤である四物湯単体で使用することはあまりなく、加減処方やほかの補益薬などとともに用いられます。
獣医師 横山 恵理