桂枝茯苓丸 けいしぶくりょうがん

漢方薬の生薬である桃仁の花

(生薬桃仁の花、桃)


桂枝茯苓丸は活血の基本方剤。寒温併用(冷えていても温かくても使用できる)であり、瘀血(おけつ)を取り除きながら正気を固めることで、瘀血により生じるトラブルを取り除きます。

もともとは婦人病に用いる漢方薬とされていて、瘀血による胎動不安や生理痛、更年期障害などの治療に適用されてきました。

漢方解説

【主治】瘀血(おけつ)。胞宮の留血による胎動不安・腹痛・漏下

中医学では、血(けつ)は全身を循行して五臓六腑から末端の肌肉に至るまでの全ての組織器官に栄養を運び、止まることなく循環しています。陰陽では陰液属していて身体を滋潤することで陽気の暴走をコントロールします。

血の循環が滞り「瘀血」が形成されると正常な滋養作用が失われてしまい様々なトラブルを生じます。

 疼痛: 刺すような痛みを生じます。夜間に増悪する固定痛が特徴です。
 腫塊: 硬い固定性の腫瘤を形成します。
 出血: 瘀血による出血は、暗紫色で血塊が混ざります。

 

【効能】

活血祛瘀(かっけつきょお)

血の循行速度が遅く流れが滞ることで「瘀血」という病理産物を生じるため、活血作用により巡りを取り戻し、瘀血を退けます。

緩消癥塊(かんしょうちょうかい)

瘀血を消散し過ぎると胎元を傷つけやすいため、緩やかな消散の方法で治療します。

【適応症状】

瘀阻胞宮(おそほうきゅう)

胞宮(子宮のこと)に瘀血があると、気血を補充することができずに妊娠を維持することができず不妊症につながったり、不正出血などの症状が起こります。瘀血の特徴である固定痛により腹部の拒按(きょあん: さわられるのをいやがる)や紫黒の血色なども見られます。

内有癥塊(ないゆうちょうかい)

中医学では瘀血が固まったものがしこりとなると考えます。子宮内に瘀血が生じることで子宮筋腫などが生じます。

  

生薬配合

「君・臣・佐・使」の配合原則の意味を参照する

【君薬】

桂枝(けいし): 温通経脈(通陽)

辛温解表薬。クスノキ科の植物、肉桂Cinnamomum cassia Presl.
陽気を巡らせることで血の巡りを後押しします。

桂枝茯苓丸の生薬の桂枝
茯苓: 滲利下行(しんりげこう)益心脾(えきしんぴ)安胎元(あんたいげん)

利水滲湿薬。サルノコシカケ科 茯苓菌Poria cocos Woif.の菌核。停滞した痰飲を取り除くことで気血の巡りの妨げを排除します。また、「心」「脾」の働きを補うことで新鮮な血の生成を促します。

桂枝茯苓丸の生薬の茯苓

【臣薬】

牡丹皮: 活血散瘀(かっけつさんお) 清泄瘀熱(せいせつおねつ)

ボタン科の植物、牡丹paeonia suffiuticosa Andr.の根皮。
活血行瘀作用により血流を改善し瘀血を軽減する作用がある。

桂枝茯苓丸の生薬の牡丹皮
桃仁(とうにん): 活血祛瘀(かっけつきょお)

活血袪瘀薬。バラ科の植物、桃 Prunus persica Batsch./山桃Prunus davidiana Franch.の種子。袪瘀の薬力が強く、瘀血阻滞による痛みや癥塊の治療に用いられます。

桂枝茯苓丸の生薬の桃仁
芍薬:牡丹皮との配合により清瘀熱の効能を高める。

補血薬。ボタン科Paeonaceae.芍薬 Paeonia lactiflora Pall.の根。
養血調経の効能を持つため、婦人科疾患の治療に用いられます。また、「肝」を補うことで痙攣性の痛みを取り除きます。

桂枝茯苓丸の生薬の芍薬

上記3種を配合することにより、癥瘕(ちょうか)だけでなく、長期間癥塊が消散しないことにより生じる鬱熱を治療する泄熱の効果も得ることができます。

【佐薬】

白密: 甘緩益補(かんかんえきほ)

補気薬。ミツバチ科 中華蜜蜂 Apis oerana Fabricius/イタリア蜂 Apis mellifera L.の蜂の巣に集めた花蜜。補中か緩ぎ急の効能により、祛瘀の薬力を緩和させます。

桂枝茯苓丸の生薬の白密   

瘀血による諸症状に使用

桂枝茯苓丸は漢方の古典といわれる中国の医学書「金匱要略(きんきようりゃく)」には、もともと癥痼(ちょうこ。子宮筋腫と考えられている)のある婦人が懐妊して不正出血を起こしたときの治療薬をして記載されている漢方薬です。

現代では婦人病に限らず瘀血によって生じる諸症状に使用しています。

キュティア老犬クリニック
獣医師 横山 恵理