五苓散 ごれいさん

五苓散 ごれいさん

(沢瀉の生薬オモダカ科の花)


五苓散は身体の中に停滞する余分な水分のなかでも、サラサラとした性質の「飲(いん)」を取り除く除飲(じょいん)の基本方剤です。

漢方解説

【主治】

蓄水証(ちくすいしょう)

五苓散が記載された「傷寒論」では、外邪(気候や飲食物等、身体にとって負担となる外的要因)による病気は十二経絡の、

太陽膀胱経→太陽小腸経→陽明胃経→
陽明大腸経→少陽胆経→少陽三焦経→
太陰肺経→太陰脾経→少陰心経→
少陰腎経→厥陰肝経→厥陰心包経

の順で表から裏(身体の深部)に進行していくと仮定されています。

蓄水証とは、太陽経に侵入した病邪が、漢方薬で身体の外に追い出しきれずに身体に残ることで「表証(ひょうしょう):風邪のひき初めに見られる浮脈・頭痛・発熱といった証」を引き起こすと同時に、太陽膀胱経から邪気が膀胱内に入ることで気化(体内の水を尿に変える作用)を阻害して小便困難を起こす病証です。

水湿内停(すいしつないてい)

「脾」は水の吸収・運送・散布によって、水液が体内に停滞するのを防ぐという「運化」を主ります。その原動力となる「脾気」が不足した「脾虚」の状態になると、水の流れが身体の中で停滞して浮腫みを生じることになり、様々な症状を引き起こします。

痰飲(たんいん) 

中医学では、生きていくうえで身体に必要な「水」の流れが停滞することで「痰飲(たんいん)」という病理産物となり様々な症状を引き起こすと考えられています。粘調な性質のものを「痰」さらさらしたものを「飲」とも区別します。

【効能】

利水滲湿(りすいしんしつ):
身体の中に停滞した水を動かし、湿を取り除きます。
温陽化痰(おんようかたん):
脾気を温め補って運化作用が正常に機能することで、痰飲を取り除きます。

【適応症状】

頭痛発熱(ずつうはつねつ)

外邪ははじめ太陽膀胱経の通る項から身体に出入りするため、表層で留まることで項付近のこわばりが生じ、頭痛を引き起こします。また、発汗することで身体から追い出そうという防御反応により発熱します。

煩渇欲飲(はんかつほついん)水入即吐(すいにゅうそくと)

東洋医学では身体を上から上焦・中焦・下焦に分かれると考えています。水は気に比べて重さがあるので、サラサラとした飲は下焦に停滞してしまい上昇に輸布されなくなってしまい喉の渇きを生じます。また、水を飲んでもうまく吸収されないのですぐに吐き出してしまいます。この症状を「水逆証」といいます。

小便不利(しょうべんふり)

外邪が膀胱の気化作用を阻害する為尿がうまく作れなくなります。

霍乱嘔吐(かくらんおうと)水腫泄瀉(すいしゅせっしゃ)

脾虚により水湿が中焦に阻滞することで嘔吐を生じます。また、この水湿が大腸に下注することで下痢を引き起こします。

頭眩(ずげん)

飲邪によって脾の昇清作用が阻滞されることで眩暈などが生じます。

生薬配合

「君・臣・佐・使」の配合原則の意味を参照する

【君薬】

沢瀉(たくしゃく): 利水滲湿(りすいしんしつ)
利水滲湿薬。オモダカ科、沢瀉 Alisma orientale Juzep.の塊茎。邪気が入ってしまい気化作用の低下した膀胱に達して利水滲湿に働きます。

沢瀉の塊茎

【臣薬】

茯苓(ぶくりょう): 滲湿健脾(しんしつけんぴ)
利水滲湿薬。サルノコシカケ科、Poria cocos Wolf.の菌核。
・気を補い、水を動かす
・脾気虚が長く存在すると「痰湿」が生まれてしまうので、白朮とともに「湿」を取り除きます

サルノコシカケ科の菌核

猪苓(ちょれい): 利水滲湿
利水滲湿薬。サルノコシカケ科、猪苓Polyporus umbellatus Fr.の菌核。利水の力が強く、小便不利や浮腫、泄瀉の治療に用います。

利水滲湿薬の中でも蠲飲(けんいん・余分な水をとりのぞく)の力が強い2つを組み合わせることで、君薬の利水の力を高めます。

サルノコシカケ科の菌核

【佐薬】

白朮(びゃくじゅつ): 健脾気・運化水湿
補気薬。キク科の植物 白朮Atractylodes macrocephala Koids.の根茎。補気健脾(ほきけんぴ)の要薬といわれる。補気だけでなく、燥湿利水作用もあるので、脾虚からくる水湿停滞による痰飲に茯苓等と配合して脾虚による倦怠感・食欲不振・軟便を改善します。

キク科の植物白朮の根茎

桂枝(けいし): 辛温解表・温経通陽
辛温解表薬。クスノキ科の植物、肉桂Cinnamomum cassia Presl.。解表作用により太陽経の表邪の治療をして膀胱の気を通し、温経通陽で膀胱の気化を助けます。

クスノキ科の植物肉桂の根

1. 君薬+臣薬:利水
2. 桂枝:通陽
3. 白朮:健脾
のバランスの良い組み合わせにより余分な水分が身体のどこに停滞していても効率よく取り除きます。

また、桂枝と茯苓の組み合わせは「桂枝茯苓丸」の君薬でもあり、外邪が太陽経に侵入する首回りの血流を改善する作用も併せ持ちます。

食べすぎ飲みすぎの薬

五苓散は、日本では「食べすぎ飲みすぎの薬」としてよく知られていますが、これは暴飲暴食という「外邪」によりもたらされた蓄水証による頭痛や倦怠感を改善する為です。

身体のどの部位に停滞している水でも動かして均衡を取り戻す五苓散ですが、動かすための「水=陰」やエネルギー「気」が不足している状態での単剤使用は嘔吐・下痢などの症状を引き起こします。必ず「証」を診てから使用してください。

キュティア老犬クリニック
獣医師 横山 恵理
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