「必ず夜中に1、2回は起きてしまう」
「夜中にウロウロしたり、ハァハァする」
「夜になると興奮して落ち着かない」
といった不眠の症状です。
ハイシニア犬に多い症状ですが、必ずしも認知症による症状とは限りません。中には12歳頃から夜になるとハァハァして落ち着かなくなる犬もいます。人でも夜ソワソワしてなかなか眠りにつけなかったり、夜中に目が覚めてしまい、一度目が覚めるとなかなか寝付けないこともあると思います。
それは認知症でなくても起こる症状なのです。
なぜ夜中に目が覚めてしまうの?
1.陰陽のバランスの乱れ
一日を昼と夜とで大きく分けると昼間が「陽」で夜が「陰」になります。夜は陰気が盛んになって安らかに静まり眠くなります。
しかし、陰陽のバランスが何らかの理由で乱れ、「陰」が不足すると夜になっても眠りにくくなってしまいます。
2.夜中は「肝」が旺盛になる
東洋医学では時間と十二経脈の気血の流れの関係性を示す「子午流注(しごるちゅう)」という考え方があります。
これは、臓腑が活発に動く時間を表しています。夜中の1時から3時は「肝」が旺盛になる時間です。「肝」は体の気を上部に上げる性質があります。肝気が高まると、のぼせて頭が熱くなったり、ハァハァ呼吸が早くなったりします。
若い頃は「腎」がしっかりしていると腎の水のはたらき(腎陰)によって気をおろしたり熱を冷ましたりしてくれています。しかし、生まれつき「腎」が弱い犬や加齢とともに「腎」が弱ってくると肝気の上昇を抑えられなくなってしまうのです。
また「肝」は「血」とも深く関わっています。夜になると日中使われていた「血」は「肝」に戻り浄化されます。夜中に睡眠をしっかりととることで全身の血の巡りもよくなるのです。逆にこの時間帯に起きていたり、睡眠時間が足りていないと血液の汚れ(瘀血)が溜まってしまい、様々な病気の原因となるのです。
これは人の体でも同じことが起こっています。余談ですが、寝る前にお酒を飲むと「肝」はお酒の解毒に働いてしまうので、血液が浄化されにくくなってしまうので注意しましょう。
3. 「心」は「神志(しんし)」をつかさどる
「精神」・「意識」は「心」がつかさどっています。「心」が過度の刺激を受けて亢進し、熱を帯びて心火となったり、心陰や心血の不足、また腎陰の不足により心陽が高まると神志に影響を与え不眠が生じます。
不眠の対処法は?
まずは規則正しい生活、運動と食養生が大事です。朝日を浴びることで体内時計がリセットされると言われています。お散歩に行って手足を動かすことで胃腸の動きも良くなり、気血の巡りも良くなります。
食事で睡眠の質改善!
安神作用のある食材には、
・玄米、小麦
・アーモンド
・ちんげんさい
・龍眼(りゅうがん)
・かき、しじみ
などがあります。
特に小麦は甘麦大棗湯という漢方の生薬の一つにもなっていますが、養心、安神、補腎の働きがあります。また龍眼も養心、安神、補気、補血、健脾作用があるのでおすすめです。
この他にもなつめやレバーなどの補血作用のある食材をとることで「血」と関わりの深い心肝の巡りが良くなります。のぼせ症状の改善のために豚肉、豆類、もやしなどの補腎の食材で腎陰を養うのもおすすめです。
鍼灸治療や漢方薬の助けを借りる
夜中に目が覚めてしまう原因を上げましたが、不眠症の「証」も様々なのです。
心火が強くなってしまっている
心血が不足している
肝火が強くなってしまっている
肝血が不足している
脾が弱り気血が不足している
腎陰が不足している
これらが複合して起こっていることも多いです。そのため不眠症の漢方薬もこれらの「証」を見極めて処方する必要があります。
特に今年の夏は異常に暑かったため、陰血が消耗してしまっているシニア犬が多くみられました。例年では気を下ろすような漢方薬で症状が改善することも多いのですが、今年は反応がいまいちのコも多くいました。下ろすだけでは反応がいまいちだったコも陰血を補うことで症状が著しく改善した症例が多くありました。
近年の気候変動によって、使用する漢方薬の種類も例年と違うケースも散見されます。鍼灸治療や漢方薬の処方には「証」の見極めが大事だと改めて感じています。
それではハッピードックライフ♪
獣医師 佐々木 彩子